

夫のために毎朝お弁当を作り、プレゼン資料は3日前には仕上げる。
英語も堪能、上司からの信頼も厚い。
そんな“完璧な妻”であり“できる女”だった私が──
今では週に1度、誰にも言えない“行き先”に向かっている。
ハイブランドのトレンチコートの下に、
着ているのはレースのランジェリーひとつ。
鏡の前で自分の姿を見るたび、思う。
「私は、壊れ始めてる」
『今夜、例の部屋で待ってる。喉、渇いてるだろ?』
黒川社長から届いた短いメッセージ。
たった一行、それだけで身体が熱を帯びる。
喉が渇いてる──そう。
普通のセックスじゃ物足りない。
夫との触れ合いなんて、もはや拷問に近い。
黒川に抱かれるとき、私は“女”になる。
しかも──何も知らなかった女から、“開発された雌”に変わっていく感覚だった。
今夜の部屋は、いつものスイートじゃなかった。
鍵のかかった奥の扉。
中にあったのは、薄暗い照明、鎖のついた椅子、
そして……鏡張りの壁と、天井カメラ。
「やっと、素直になってきたな。
玲奈さん、もう“指示されないと感じない身体”になってるだろ?」
社長が低い声で囁きながら、後ろから私の首元に口を寄せる。
「……わからない。けど……っ、怖いくらい、欲しいんです……」
「言ってみろ。誰の命令で、ここに来た?」
「……黒川さんの……です」
「違うだろ?」
「……“ご主人様の”命令、で……」
自分の口から出るその言葉に、羞恥と快感が入り混じって震えた。
でも、もう抗えない。
足を縛られ、目隠しをされ、耳元で社長が囁く。
「ここ、どうしてほしい?」
「……指、で……なぞって……。ゆっくり……奥まで……っ」
「淫乱になったな。最初は“人妻ですから”って硬かったくせに。
今じゃ自分から脚を開いて、玩具も欲しがる女になった」
乳首に挟まれた電動クリップが、カチッと音を立てて動き出す。
「やっ……だ、めっ……感じすぎて……あああっ!」
媚声が口から勝手に溢れる。
でも社長は、意地悪く言う。
「いい声だな。もっと鳴け。ここに入ってるカメラ、全部録画してるからな?」
羞恥で壊れそうなのに、興奮が止まらない。
私はもう──女としての快楽を知りすぎた。
普通のセックスには戻れない。
その夜、終わったあとのバスルームで、
私は鏡越しに、自分の顔をじっと見つめていた。
髪は乱れ、首筋には噛み跡。
脚には赤い縛り痕。
そして、唇は腫れ、肌は汗ばみ……“満たされた女”の顔だった。
「最低だよ、私……」
そう呟いたとき、後ろから社長がバスローブ姿で現れる。
「お前は今、人生で一番綺麗な顔をしてる。
媚びでも演技でもない、本物の欲望でできた女の顔だよ」
その言葉に、涙が出た。
嬉しいわけでも、悲しいわけでもない。
ただ、もう“完璧な妻”にも“キャリアウーマン”にも戻れないと悟った瞬間だった。
数週間後。
私は離婚届を、ひとりで役所に出しに行った。
夫には何も言っていない。
ただ淡々と、判を押した書類が郵便で届くだけ。
会社も退職願を出した。
スーツに身を包んでオフィスに行く自分が、
もう**“誰かを演じるための仮面”にしか思えなくなった**から。
だけど、これは堕ちたんじゃない。
やっと“私”を生き始めたんだと、思いたかった。
エピローグ:「壊れた女の、生き方」
今、私は黒川の“所有物”だ。
週の半分は彼の元に通い、
時には会食の“同伴女”として他の社長たちの前で笑い、
夜にはプレイルームで嬲られ、壊され、愛される。
普通の生活じゃない。
でも、普通の生活では感じられなかった快感が、ここにはある。
「お前、本当に変わったよな。あの“お堅い人妻”が、
今じゃ自分から首輪をつけて“ご主人様”って呼ぶようになるなんてな」
「……笑わないでください」
「笑ってねぇよ。俺は、お前みたいに壊れて、また立ち上がる女が好きだ」
壊れて、壊されて、
でも私はもう、演じなくていい。
これが、“私の生き方”なんだと胸を張って言えるまで、私はこの欲望の底を生きる。