私は人妻。彼は後輩。…でも、出会った瞬間から、心は少しずつ揺れていた

私は人妻。彼は後輩。…でも、出会った瞬間から、心は少しずつ揺れていた

会社の後輩に心を揺さぶられていく人妻の私。 理性と感情の狭間で揺れる視線と沈黙の中、 「何かが始まる」予感だけが、ずっと心に残っていた。

社内で「しっかり者の先輩」として見られることには、もう慣れていた。


名前は滝沢 美咲(たきざわ みさき)。
入社8年目。結婚して3年目。
同僚との付き合いもほどほどに、派手すぎず、真面目すぎず──
“できる先輩”というポジションを、無意識のうちに演じていたのかもしれない。


けれど、彼が配属されてきた日。
その日から、少しずつ心が軋む音が聞こえはじめた。


第一章:新しい風が吹いた日


春の空気は、どこか新しい香りがする。


異動の季節。私の部署にも、新しいメンバーが加わった。


「高橋くんです。2年目で異動してきました。今日からよろしくお願いします」


上司に紹介されたその青年は、まだ緊張が抜けきらない顔で、それでもまっすぐに私を見た。


「あ……滝沢さん、ですよね? 社内報で見たことあります」


「え? あ、ありがとう……ございます?」


思わず笑ってしまった。
社内報なんて、誰も読んでないと思っていたから。


けれど、彼は違った。
最初の会話から、妙に記憶に残る後輩だった。


第二章:年下の彼、無垢な視線


年下の男性と仕事をするのは、別に珍しくない。


けれど彼──高橋くんは、どこか“真っ直ぐすぎて危うい”。


私の言葉を真正面から受け止めて、素直に頷き、真剣にメモを取る。


その姿が、微笑ましくて、時々ちょっと“可愛い”とすら思ってしまった。


「そんなに真面目に見られると、照れるなぁ」


そう言うと、彼はほんのりと赤くなって、目を逸らす。


ああ、この子、ほんとに私を“女性”として見てるんだなって──
その時、確信してしまった。


第三章:触れてはいけない境界線


私は人妻だ。


薬指の指輪が、その事実を毎日思い出させてくれる。


夫とは、悪い関係じゃない。
でも、どこか淡々としている。
会話も、食事も、夜の営みも──“形”だけ。


気づけば私は、夫よりも後輩の彼の言葉や視線に、胸が高鳴るようになっていた。


「滝沢さん、今日の服……すごく似合ってます」


「えっ、ほんと? ありがとう」


そんな他愛もない一言が、なぜか嬉しい。


そのたびに、心の中でブレーキをかける。
人妻でしょう? 先輩でしょう?
でも──
理性が止めても、感情が追い越していく瞬間が増えていった。


第四章:ふたりきりの夜のオフィス


その夜、彼とふたりきりで残業することになった。


オフィスの照明が少し落ちて、外はもう真っ暗。
デスクの間を歩く音が、やけに大きく響く。


「高橋くん、お疲れさま。……コーヒー淹れたから、少し休憩しよ?」


彼の机にカップを置くと、驚いたようにこちらを見た。


「……ありがとうございます。滝沢さん、いつも気遣ってくれて」


「ふふ、そんな大げさな。
……でも、君は頑張ってると思う。見てて分かるよ」


そのとき、自分の声が少し甘くなっていたことに気づいていた。


でも止めなかった。
たぶん、止めたくなかった。


ただふたりで、コーヒーを飲む時間。


けれど、沈黙が妙に苦しくて、心地よくて──
それが怖かった。


第五章:カフェでの仮定の話


週末、偶然すれ違った帰り道。
誘ったのは、私の方だった。


「この近くに、雰囲気のいいカフェがあるの。もしよかったら、寄っていかない?」


自分からそんなことを言うなんて、らしくなかった。
でも、もう少しだけ“彼と一緒の時間”が欲しかった。


窓辺の席。
カフェラテ。
落ち着いたBGM。


ふとした会話の中で、彼が真剣な目で問いかけてきた。


「滝沢さんって……今、幸せですか?」


不意打ちだった。
でも、嘘をつくことはできなかった。


「……正直、わからないの。
“幸せ”って何か、もう分からなくなってるのかも」


彼は黙って、ただ頷いた。


「もし、私が“人妻じゃなかったら”って仮定の話をしたら……怒る?」


「怒りません」


その返事を聞いて、つい、テーブルの下で彼の指先にそっと触れてしまった。


ほんの一瞬。
でもその瞬間、自分が一線を越える“手前”まで来てしまったと理解していた。


エピローグ:揺れる心の、その先で


私たちの関係は、まだ何も始まっていない。
でも、“何かが動き始めた”のは確かだった。


会社では、相変わらずの先輩と後輩。
他人の目から見れば、何の変哲もない関係。


けれど、私たちは知っている。


視線が合うたびに、何かが熱を帯びていくことを。
ふとした瞬間に、言葉よりも心が近づいていることを。


人妻としての理性と、ひとりの女としての感情。
その狭間で揺れる私の心は、今、彼の一言、彼の仕草、彼の優しさに揺さぶられている。


もしかしたら、これは“恋”ではないのかもしれない。


でも──
もし彼が手を伸ばしたら。
私がその手を、取ってしまったら──


そのとき、私はもう“先輩”ではいられない。